大判例

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大阪地方裁判所 昭和49年(わ)1960号 判決

本籍

岡山県都窪郡清音村大字上中島七〇番地の一

住居

大阪府池田市豊島北二丁目一の二三

会社役員

(元日本熱学工業株式会社代表取締役副社長)

大熊芳郎

昭和四年三月三〇日生

本籍

東京都品川区北品川五丁目七一八番地

住居

東京都品川区北品川五丁目一四番一七号

会社員

(元日本熱学工業株式会社専務取締役)

岡部禮蔵

大正一一年九月二〇日生

本籍

京都市東山区山科栗栖野打越町三三番地

住居

神奈川県川崎市多摩区王禅寺六一三の八七

会社員

(元日本熱学工業株式会社常務取締役)

西田憲次

大正一五年一月七日生

本籍

大阪市阿倍野区昭和町三丁目一〇番地

住居

大阪府豊中市北桜塚二丁目五番六一号

破産管財人事務所事務員

(元日本熱学工業株式会社専務取締役)

湯浅利郎

昭和七年八月一日生

本籍

島根県松江市西茶町六〇番地六

住居

大阪市西成区山王二丁目三四都荘内

会社役員

(元日本熱学工業株式会社常務取締役)

長谷川貞勝

昭和八年二月四日生

本籍

大阪市天王寺区上本町八丁目四一番地

住居

大阪府摂津市千里丘六丁目四番一九号

無職

(元エアロマスター株式会社代表取締役社長)

松井雄之亮

大正一二年一〇月一四日生

右大熊芳郎、岡部禮蔵、西田憲次、湯浅利郎、松井雄之亮に対する各商法違反、長谷川貞勝に対する商法違反、証券取引法違反各被告事件について、当裁判所は、検察官岡靖彦出席のうえ審理して、次のとおり判決する。

主文

一、被告人らを懲役一〇月に各処する。

二、被告人らに対し右裁判確定の日からそれぞれ二年間右刑の執行を猶予する。

三、訴訟費用中、証人服部正毅に支給した分(第二九回公判期日で取調。昭和五一年二月九日支給分。)は全部被告人大熊芳郎の負担とし、証人田中仁栄(同五〇年九月九日支給。)、同白井為雄(同上)に各支給した分は全部被告人松井雄之亮の負担とし、被告人湯浅利郎の国選弁護人に支給した分は全部被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

第一、被告人大熊芳郎は、大阪市東区瓦町五丁目三七番地の一に本店が所在し、東京などに支店を置き、空調工事の設計施工、冷暖房機器等の販売を主たる営業目的とし、その株式が同市東区北浜二丁目一番地所在の大阪証券取引所並びに東京都中央区日本橋兜町一丁目六番地所在の東京証券取引所の開設する両有証券市場に上場されている日本熱学工業株式会社代表取締役副社長、同岡部禮蔵は同社専務取締役、同西田憲次、同湯浅利郎は同社常務取締役、同長谷川貞勝は同社取締役(株式関係業務担当。昭和四九年二月常務取締役就任)であったが、

一、被告人大熊芳郎、同岡部禮蔵、同西田憲次、同湯浅利郎は、同社代表取締役社長牛田正郎、同社常務取締役服部正毅、同城倉晃らと共謀のうえ、同社が昭和四八年一月一日から同年一二月三一日までの第一八期決算期において、多額の欠損(当期損失額九億五、〇〇九万九、四四七円繰越損失額七億七、七三五万七、〇〇八円合計一七億二、七四五万六、四五五円)を出し、他に取崩して充当するに足る積立利益もなく、株主に対する利益配当ができないのに、同社の株価を維持し、かつ株式を証券取引所第一部に指定替を受け、証券市場並びに金融機関からの資金調達を円滑にするため、株主に対する利益配当を継続しようと企て、完成工事高の水増し並びに工事原価、一般管理費を実額以下に減額する等の方法により、多額の架空経常利益(三四億七、二八三万四、八六七円)を計上して法人税等充当前当期利益一七億三、一九七万三、一七六円。前期繰越利益一、三四〇万五、二三六円当期未処分利益九億四、五三七万八、四一二円とする内容虚偽の貸借対照表及び損益計算書を作成し、さらにこれに基づく利益金処分案を作成して、これらを昭和四九年二月二八日大阪市東区北浜一丁目三一番地所在大阪証券会館で開催された定時株主総会に提出したうえ、同社代表取締役社長牛田正郎において利益があったように決算報告をして株主に対し年三割の率で利益配当を行う旨の利益金処分案の承認を求め、同社監査役松井雄之亮をしてその際右決算報告書及び利益金処分案が適正妥当である旨の意見報告をなさしめ、右総会をしてこれを承認可決させ、その直後ころ株主に対し合計二億四二七万七、八〇八円の違法な利益の配当をし、

二、被告人大熊芳郎、同岡部禮蔵、同西田憲次、同湯浅利郎は、前記牛田正郎、同服部正毅、同城倉晃、同社代表取締役副社長牛田次郎らと共謀のうえ、同社第一八期の決算は、前記のとおり欠損であるのに、役員に対する賞与を支給しようと企て、取締役は会社が期末決算の結果利益が生じていないときは役員に対し賞与を支給してはならず、かつ支給の可否を決する株主総会には真実の貸借対照表、損益計算書とこれに基づく利益金処分案を提出すべき任務があるのに、いずれも自己または他の役員の利益を図る目的で、その任務に背き、前記第一の一記載の定時株主総会において同記載のとおり前記牛田正郎において利益があったように内容虚偽の決算報告をしたうえ役員に対し、五、〇〇〇万円の役員賞与金の支給を行う旨の利益金処分案の承認を求め、同社監査役松井雄之亮をしてその際右決算報告書及び利益金処分案が適正妥当である旨の意見報告をなさしめ、右総会をしてこれを承認可決させ、同年五月三一日同社においてかねて仮払処理をしていた前記牛田正郎ほか一九名に対する役員賞与金合計三、〇四五万九八五四円を前記承認可決された役員賞与金のうちから同額を取崩して相殺し、もって同社に対し同額の損害を加え、

三、被告人長谷川貞勝は、前記牛田正郎および牛田次郎と共謀のうえ、大蔵大臣に提出する同社の第一八期有価証券報告書中の財務諸表に虚偽の金額を記載して、当期未処分利益剰余金が一七億二、七四五万六、〇〇〇円の欠損であること等を秘匿しようと企て、財務諸表中の別表第一記載の科目について、真実は同表「真実の金額」欄記載の金額を記載すべきにかかわらずいわゆる粉飾を行った同表「虚偽の金額」欄記載の金額を記載して、当期未処分利益剰余金が一七億四、五三七万八、〇〇〇円とする等の内容虚偽の同社第一八期有価証券報告書を作成し、被告人長谷川貞勝において、昭和四九年三月二九日東京都千代田区霞ケ関三丁目一番一号大蔵省において、右有価証券報告書を担当係官を介して大蔵大臣に提出し、

四、被告人長谷川貞勝は、前記牛田正郎および牛田次郎と共謀のうえ、法定の除外事由がないのに、同社の計算において同社の株式を取得しようと企て、別表第二記載のとおり、昭和四七年一一月二二日から同四九年五月一五日までの間、前後二三回にわたり山種証券株式会社などを通じて前記大阪証券取引所ならびに前記東京証券取引所の開設する両有価証券市場において、山岡竹蔵らの名義を使用し、前記日本熱学工業株式会社の資金合計二億六、九二五万七、〇〇〇円をもって同社の株式合計二八万二、〇〇〇株を買い付けて不正に取得し、

五、被告人長谷川貞勝は、前記牛田正郎および牛田次郎と共謀のうえ、共同して証券取引法施行令(昭和四〇年政令第三二一号)で定めるところに違反して、同社の株式の相場を安定する目的をもって、別表第二の番号一〇ないし二三記載のとおり、昭和四九年五月九日から同月一五日までの間、大阪屋証券株式会社など四会員を通じて前記大阪証券取引所並びに東京証券取引所の両有価証券市場において、松友商事株式会社などの名義を使用し、前記日本熱学工業株式会社の株価が安定するよう同社株式合計二三万七、〇〇〇株(購入代金合計二億三、二八五万九、〇〇〇円)を継続して買い支える一連の売買取引をし、

第二、被告人松井雄之亮は、大阪市東区瓦町五丁目三七番地の一所在のエアロマスター株式会社取締役副社長であったが、同社代表取締役社長牛田正郎、同社監査役牛田次郎らと共謀のうえ、

一、同社が昭和四八年一月一日から同年一二月三一日までの第一〇期決算期において、多額の欠損(当期損失額五億七、九九六万一、一三二円繰越損失額四億四、三六八万二、八五六円合計一〇億二、三六四万三、九八八円)を出し、他に取崩して充当するに足る積立利益もなく、株主に対する利益配当ができないのに、同社の親会社である日本熱学工業株式会社の株価を維持し、かつ将来自社の株式を証券取引所第二部に上場して証券市場並びに金融機関からの資金調達を円滑にするため、株主に対する利益配当を継続しようと企て、クーラーの架空製造販売等による売上高の水増し並びに営業費、一般管理費を実額以下に減額する等の方法により、多額の架空経常利益(一四億八、三五五万九、一三〇円)を計上して、法人税等充当前当期利益四億五、一七八万七、一〇三円前期繰越利益八一二万八、〇三九円当期未処分利益二億二、五九一万五、一四二円とする内容虚偽の貸借対照表及び損益計算書を作成し、さらにこれに基づく利益金処分案を作成して、これらを昭和四九年二月二七日同社で開催された定時株主総会に提出したうえ、同社代表取締役社長の右牛田正郎において利益があったように決算報告をして株主に対し年二割の率で利益配当を行う旨の利益金処分案の承認を求め、同社監査役の右牛田次郎をして、その際右決算報告書及び利益金処分案が適正妥当である旨の意見報告をなさしめ、右総会をしてこれを承認可決させ、その直後ごろ株主に対し合計四、九〇〇万円の違法な利益配当をし、

二、同社第一〇期の決算は、前記第二の一記載のとおり欠損であるのに、役員に対する賞与を支給しようと企て、取締役は会社が期末決算の結果利益が生じていないときは役員に対し賞与を支給してはならず、かつ支給の可否を決する株主総会には真実の貸借対照表、損益計算書とこれに基づく利益金処分案を提出すべき任務があるのに、いずれも自己または他の役員の利益を図る目的で、その任務に背き、前記第二の一記載の株主総会において同記載のとおり前記牛田正郎において利益があったように内容虚偽の決算報告をしたうえ、役員に対し二、八〇〇万円の役員賞与金の支給を行う旨の利益金処分案の承認を求め、前記牛田次郎をして、その際右決算報告書及び利益金処分案が適正妥当である旨の意見報告をなさしめ、右総会をしてこれを承認可決させ、同年三月三〇日同社において、かねて仮払処理をしていた前記牛田正郎ほか一九名に対する役員賞与金合計一、八二八万七、三七二円を前記承認可決された役員賞与金のうちから同額を取崩して相殺し、もって同社に対し右同額の損害を加え

たものである。

(証拠の標目)

(略)

(法令の適用)

一、(一) 被告人大熊芳郎、同岡部禮蔵、同西田憲次、同湯浅利郎につき

1  判示第一の一の所為につき、各刑法六〇条、商法四八九条三号

判示第一の二の所為につき、各刑法六〇条、商法四八六条一項

2  各罪につき、いずれも懲役刑選択

3  刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(重い判示第一の二の罪の刑に法定の加重)

4  刑法二五条一項

(二) 被告人長谷川貞勝について

1  判示第一の三の所為につき、刑法六〇条、証券取引法一九七条一号の二、二四条一項一号

判示第一の四の各所為につき、各刑法六〇条、商法四八九条二号

判示第一の五の所為につき、各刑法六〇条、証券取引法一九七条二号、一二五条三項、証券取引法施行令二〇条

2  刑法五四条一項前段、一〇条(判示第一の四の別表第二のうちの番号一〇乃至二三の各所為と同第一の五の一連の別表番号一〇乃至二三の所為。結局犯情の最も重い第一の四の一〇ないし二三を包括した一個の罪の刑で処断することになる。)

3  各罪につき、いずれも懲役刑選択

4  刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(刑および犯情の最も重い判示第一の四の別表第二の一〇ないし二三を包括した一個の罪の刑による。)

5  刑法二五条一項

(三) 被告人松井雄之亮について

1  判示第二の一の所為につき、

刑法六〇条、商法四八九条三号

判示第二の二の所為につき、刑法六〇条、商法四八六条一項

2  各罪につき、いずれも懲役刑選択

3  刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(重い判示第二の二の罪の刑に法定の加重)

4  刑法二五条一項

二、訴訟費用の負担につき刑事訴訟法一八一条一項本文。

(なお、鑑定人望月正に支給した分については、被告人らに負担させない。)

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 井上武次 裁判官 谷口敬一 裁判官 西村則夫)

別表第一

(単位千円)

〈省略〉

〈省略〉

別表第二

〈省略〉

〈省略〉

○ 番号一~二三買付株数

合計二八万二、〇〇〇株

(購入代金合計二億六、九二五万七、〇〇〇円)

○ 番号一〇~二三買付株数

合計二三万七、〇〇〇株

(購入代金合計二億三、二八五万九、〇〇〇円)

別紙証拠目録(略)

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